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MoonBird

恐怖に目を見開きながらも、女の子を見つめる祖母の幸子。

次の瞬間、はっと息をのみ、

   「美沙子・・・・・?」


と声をかけた。
そして、動けないでいるカケルの横をすり抜けて、階段をゆっくりと登って
行く。

   「その髪は、いつも私が切っていたわ。その赤いカーディガンは、私が
 編んだもの・・・。ポケットの白いうさぎをとても気に入ってたわ。」

泣いていた女の子は、不思議そうに幸子を見つめた。

ようやく体のこわばりが消えて、カケルは考えることができるようになった。

   「おばあ・・・・ちゃん?」

声をかけると、幸子は女の子を見つめたままで言った。

  「この子は、美沙子よ。5歳の頃の美沙子なの。間違いないわ。」

最後はこみ上げる思いで涙声になりながら。

  「え? 美沙子って・・・・母さんのこと?」

母さんは、自分のことを5歳のユナだと言い張り、病院にいる。

そしてここに、目の前に、5歳の母さんがいる・・・・。

一体、どうなっているのだ?

  「美沙子? どうしてそこにいるの?」

カケルの思いは、幸子の声で途切れた。

  「・・・・・・・・わからないの。」

女の子は、小さな声で答えた。

  「帰るところが・・・ないの。」

再び大粒の涙をほほにこぼしながら言った。

  「大丈夫よ、あなたは美沙子よ。ここをおうちにしてもいいのよ。」

幸子もまた、涙ぐみながら女の子に手を差し伸べた。

  「あた・・・し、ミーチャ・・コ?」

  「そうよ、美沙子は5歳くらいまで自分のことミーチャって言ってた。」

女の子は・・ミーチャは、幸子の顔をじっと見つめた。

  「・・・・・ママ?」

幸子は、嬉しそうに何度も何度も、ウンウンとうなづいた。

ミーチャは、安心したように幸子に向かって、ゆっくりと階段を降り始めた。

そして広げた幸子の両腕の中に、すっぽりと包まれた・・・・が、抱きしめた
はずの両の手は、ミーチャに触れることはできなかった。

そう・・・ミーチャは、実体ではなかったのだ。

一瞬悲しそうに目をふせた幸子は、再び目を上げてミーチャを見つめ、微笑んだ。

その目には、確かに幼い日の娘の姿が映っている。

  「この子は、私が預かるよ、カケル。」

幸子は優しくミーチャに手のひらを差し伸べた。

ミーチャもまたにっこりと微笑み、その小さな手を幸子の手のひらに重ねた。

  「美沙子、この子はカケルだよ。」

  「カ・・ケ・・ル?」

  「うん、そう、カケル。」

カケルが微笑むと、ミーチャは嬉しそうに笑った。

  「おやすみ、カケル」

  「うん・・・・」

2人はそのまま、幸子の部屋に入って行った。

ドアがパタンと閉められた時、カケルはハッと我に返った。

 5歳の美沙子は、帰れないと泣いていた。

     どこへ?

   それは・・・・・・もしかして・・・・
   ・・・・・・・・・美沙子自身の中へ・・ということ?


 母の美沙子は、自分を4年前に亡くなった妹のユナだと思い込んでいる。

そうすることで耐えられない悲しみから自分を守っているのだ。

そのことで美沙子自身の中で何かが変わろうとしているのではないだろうか。

ミーチャはそれを教えようとしているの・・・かもしれない。

・・・・・・・・何とかしなければ!

カケルは、母が自分をママと呼んでショックを受けたあの日以来、
初めてそう強く思った。

今までは、自分がまだ子どもだという理由で逃げていたのかもしれない。

 ミーチャが降りて行った階段を登り、自分の部屋に入ると、窓の外に
大きな大きな満月があった。

リンとした黄金色の光が、カケルをふわりと包み込む。

 「あたし、絶対にまたみんなで、家族になりたいの。
   生まれ変わった世界で。」

あの日のユナの声が胸に響く・・・・・。

ユナと月の光の中で過ごしたあの日は、もうずいぶん遠くに感じる。

 でも、自分に一体何ができるのだろう。

 一体、どうすればいいのだろう・・・・。

カケルは、ため息をついて、満月を見つめた。
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theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

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  またひとつ、季節がめぐろうとしていた。

刺すように冷たかった冬の風が、日ごとに柔らかくなる。

病院を出ると真っ暗だった空が、明るくなって行くのは嬉しい。

 しかし、カケルの足どりは重いーーーー。

母の美沙子に、「ママ」と呼ばれる気持ち・・。

息子なのに。まだ小学生なのに。

こみ上げる思いと同時に涙が目に盛り上がる。

それを懸命にこらえて、カケルはやみくもに足を速める。

 「何のために自分は生きているんだろう。」

 「何のために生まれてきたんだろう・・・」

胸の奥に重く重く沈んでいる思い。

その黒々とした存在は、ふいに手を伸ばし、カケルを捉えようとする。

必死に逃れながらも、いつしかその底なしの沼のような闇に落ちてしまいそうで怖かった。

 そんなカケルを、祖母の待つ家は温かく迎えてくれる。

遠くから家に明かりが灯っているのを見ると、カケルは救われるようにホッと
するのだった。

 「お帰り、カケル」

その笑顔に、頑なになりそうな心がふっと和むのを感じるのだった。

 「美沙子は元気だった?」

 「うん・・・・」

この会話も、もうどれくらい交わされただろう。

そして、後どれくらい繰り返されるのだろう。

カケルは夕食と一緒にその思いを飲み込んだ。

 「ごちそうさま」

 「はい。お風呂に入ってね」

 「うん・・・」

 「明日、何か用意するものはない?」

もう、それも何年も交わされてきた会話である。

何かあれば伝え、なければ自分の部屋に向かう。

 リビングから出ようとしてドアを開けた時、カケルをいつもと違う感覚が
襲った。

 サーーッと冷たい塊が、頭の頂上の一点からものすごい勢いで全身を
駆け巡って行った
全身を耳にして、全力でその原因をつきとめようとする。

・・・・・やがて小さな小さな声が、カケルの耳に届いた。

  「・・・・えっ・・ふ・・えっえっ・・・・」

     泣いている?

     誰が?

カケルは、その場を去りたい気持ちに駆られると同時に、声のする方向から
目を離すことができなくなった。

後ずさりしたくても目をそらしたくても、体が固まったように動かない。

そして・・・。

その誰かがこちらに向き、ゆっくりと近づく気配が。

  「う・・うわっ・・・うわぁーーっ!!」

思わず知らず、声を上げるカケル。

その声に、祖母の幸子が飛んできた。

  「どうしたの?カケル!!」

幸子の目に、階段を見つめ、一歩も動けずに怯えてふるえるカケルの姿が
映った。

おそるおそる階段を見上げると・・・。



・・・・・・・そこには、5,6歳くらいの女の子が立っていた。

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Moon Bird

  むかしむかしあるところに、お姫様がおりました。

お姫様は、ずーっとずーっとあるお城のいちばん高い塔に、ひとりぼっちで

とじこめられていたのでした。

その部屋は、お姫様がやっと寝そべることができるくらいにせまくて、高くなるほどにせまくとがって行く塔の天

井にひとつだけ窓がありました。

お姫様はいつも、その窓から聞こえてくるいろいろな音に耳を傾け、その窓

から見える、空の景色を見て過ごしました。

中でも一番好きだったのは、月を見ることでした。

月の光は、優しくキラキラとお姫様を照らし、包んでくれました。
お姫様は、日ごとに姿を変えて行く月に向かって、いろいろなことを話しました。そしていつも、こう言うのです。

 「どうか、私をここから出して下さい!」

月は、ただ優しくそんなお姫様を照らすのでした・・・。

 そうしてどれくらいの年月が経ったのでしょう。
小さかったお姫様は、まばゆいほどの美しい少女に成長しました。

 ある日、開けられることのなかった塔の扉の鍵が外され、お姫様の部屋にそのお城の王様が入ってきました。
王様の顔はひげもじゃで、見るからに悪魔と手を組んでいそうな人相でしたので、お姫様は思わず後ずさりをしました。

  「お前をここから出してやろう。そしてわしの召使いにしてやるぞ。」

王様はそう言ってお姫様を、底意地の悪そうなギラギラした目で何度も見ると
気味の悪い声で笑いながら階段を下りて行きました。

お姫様は、恐ろしくて、力が抜けて立っていられませんでした。
しばらくして、涙がほほをつたいました。後から後からとめどなく・・・。

  「やっと外に出られると思ったら、あんなイヤな顔をした王様の召使い
 なんて!それなら、死ぬまでここにいた方がずっとましだわ!」

お姫様は、青い空があかね色になり、やがて夜になってもまだ泣きつづけて
いました。

 その日は、満月でした。大きなまるい月が、高い塔の窓からお姫様を見下ろし
ました。

お姫様の目からは、ポロポロと月の色に染まった涙がこぼれ落ちて行きます。

お姫様は、涙にぬれた目でお月様に言いました。

  「お願いします!どうか私をここから出して下さい。たとえ小さなネズミ
 でもいいの。自由になりたいの!」

10回、20回、100回・・・200回・・お姫様は、その願いを繰り返し
月に向かって祈り続けました。

 すると、急にまぶしい光が高い窓から差込んでお姫様を包み込みました。

一瞬、その光の中にお姫様は消えて、次の瞬間には月の光の色をした大きな鳥に姿を変えていたのです。

月の光の色をした鳥は、まぶしく輝く翼を広げ、高い塔の窓を見上げると、
大きくはばたき、軽々とその窓をくぐりぬけて大空へ更にはばたきました。

そして一声、高く長く声を響かせると、月に向かってまっすぐに飛んで行きました。

 今でも、どこかで月の光の色をした鳥を見た人は、願いがひとつだけ叶うと
 言われているのです。


  「ねえ、もう一回読んで、ママ」

  「ユナもう夕方だよ。もうすぐごはんだからね。」

  「えーっ、もう帰っちゃうのママ」

  「うん、また明日ね。」

 カケルは母のベッドの横で、ランドセルをしょい、帰りしたくを始めた。

・・・・・・あの日から、ユナが光の世界へ旅立って行ってから、もう4年に
なろうとしていた。カケルはこの4月から5年生になる。

 あの日、母の美沙子はショックのあまりに倒れてそのまま一週間ほど眠り続けた。ユナのお通夜もお葬式も祖母と父の3人で、しめやかに行った。

 母がショックから立ち直ったら、あの月の夜、ユナとケルンとリーデと過ごした時間のことを話そう。カケルはそう思って、母が目覚めるのを待った。

  一週間が過ぎて、母の美沙子は目を開けた。

  「母さん」
  「美沙子」

 カケルと父の呼びかけに、美沙子は不思議そうに首をかしげた。

  「どうしたの?あたしは、ユナよ。へんなママとお兄ちゃん」

 何と、目覚めた後、美沙子は自分をユナだと思い込んでいたのである。

  あまりにショックが大きすぎて、事実を心の隅に追いやり、違う現実を
作り出したのだと医者は言った。

 そして心の傷が治るまで、ユナとして扱うことにしたのだ。

  そのまま、4年が過ぎた。カケルは何と、ママと呼ばれている。

姿かたちは子どもなのに、なぜ母は自分をママと呼ぶのかわからない・・。

いつまでこんな日が続くのだろう・・・カケルはあかね色の空を仰いで、唇
をかんだ。

theme : 自作連載小説
genre : 小説・文学

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月の光  最終回

    「わかったよ、ユナ。光の世界に母さんも父さんも、ボクも還れるように がんばる。」

 ユナは、月の光を写したキラキラの瞳で、にっこり笑った。

  「それから・・・ごめんね。ユナ。病院にお見舞いに行かなくて・・」

カケルは、心に何も残しておきたくなくて、ユナの目を見つめながら言った。

  「お兄ちゃんは、あたしにケルンをくれたわ。そしてここに来てくれて
 あたしと遊んでくれた。それから、あたしのお願いをわかってくれた。
 だから、もういいの。あやまらないで。」

2人の瞳から、同時に月の光の色の涙が、コロコロこぼれ落ちた。

  「・・・・ユナは、ずっと生きているんだよね。いなくなるんじゃ
  ないよね。」

  「そうよ。あたしは光の世界に行って、大人になるんだって。あたしね
  もっともっと上手に絵を描けるようになりたいんだ。」

  「ユナならきっと、すごい絵を描けるようになるよ。」

カケルは、ケルンが笛を吹いて部屋に導いた、チョウたちを思い出した。

 リーデがそっと、ユナの肩に手を置いた。

  「カケル、ありがとう。ユナの願いをわかってくれて。ユナは光の世界で たくさん勉強しながら、あなた方のことをいつも見守っているわ。」

ユナがこくん、とうなづいた。

 そしてリーデの背中に、まぶしいくらいの真っ白な翼が現れて左右に大きく
広がった。

ケルンが、カケルの腕の中をふいにすり抜け、ユナの胸に飛び込んだ。

 リーデとユナとケルンは、ふわりと地面から離れた。

  「約束よ、お兄ちゃん。絶対にまた家族に・・ね!」

  「うん・・。」

  「カケルさあん、さよならは言いませんよ。またお会いしましょうね!」

  「ケルンは何で笑ってるのさ」

  「ユナさんは、私の泣く姿だけは描いて下さいませんでした。私には
   泣いてほしくないとおっしゃって。」

 ケルンは、初めて会った時の笑顔で言った。

  「わかったよ。ありがとう、ケルン。またね。」

その間にも、カケルとユナの距離は離れて行く。

2人は言葉を失って、ただお互いを見つめるだけだった。

あふれ出した涙をふこうともせず・・・。

月の光はユナとリーデとケルンを、ただ優しく包みながら高く高く空へ導いて
行く。

  「ユナぁーーー!!」


 カケルは叫んだ。声の限り。

  「約束するよー! ちゃんと守るからねーーー!!」

 やがて3人の姿は、月の中に溶け込むように、小さく小さく消えて行った。

 カケルはそれでも、月を見つめ続けていた。

チョウたちが、ふわりふわりとカケルの周りに集まってきた。

ユナが、カケルがここに来られるようにと描いたチョウたち。

カケルは、一羽一羽を親しみをこめて見つめた。
 
  ユナ・・・ボクの妹。

  たったひとりのボクの妹。

  ボクは、生きて行くよ。

  キミにまた会うために。
 
 ユナ・・・月の光の中にキミを探すよ。

 この日のこと、ずっと忘れないよ。

 ずっとずっとキミを忘れないよ。
 
 ユナ・・ボクも大人になるよ。

 いつの日か、きっとまた生まれ変わって

 みんなで家族になろうね。

 そして幸せに暮らそうね・・・・。


 カケルの周りに何千と集まったチョウたちは、それぞれに光の粉をふりまき

黄金色のじゅうたんを作った。

そして、月を見つめたままのカケルを乗せてふわりと地面を離れ、静かに

月から遠ざかって行くのだった。



              ・・・・・END・・・・




   月の光を読んで下さったみなさん、ありがとうございました。
終わりまで書けるか自信がなかったのですが、何とか終わることができました
読んで下さる方がいて下さったからこそです。
本当にありがとうございました。

  尚、こんな拙い物語ですが一応、著作権がございますので無断で転載など
しないで下さいね。


 あとがきを書こうと思いましたが、続きを書いてみようかなあ・・・と
思っています =*^-^*=♪
たぶん、旅行から帰ったら・・・。
よろしければ、また読んでやって下さいませ☆

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