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月の光 第4章  ユナ

  
  「お兄ちゃんに、お願いがあるの」

 ユナは、今度はカケルを見つめて言った。

   「あたしは、もうすぐリーデと光の世界に還るの。」

   「えっ!?」

でもすぐに、ユナが笑顔になった。

   「もう、苦しくなることはないの。あたしがいなくなるわけでもないの
 よ。ただ・・・」

そこで、ユナの言葉はふいに途切れた。

   「ただ、あなたやお母さんやお父さんに、会えなくなるの。」

リーデが言葉を続けた。

ユナがうなづく。

   「魂が体から離れると、この世界の人の目には見えなくなるだけで、ユ ナはずっと行き続けているわ。生きる場所が、変わるだけなの。」

   「生きる場所が?」

リーデは、にっこり笑って、ユナの頭を愛しそうになでた。

   「人は、数え切れないくらい生まれ変わっているの。その中には、病気 の体で生まれるっていう、つらい経験を選ぶこともあるの。それはとてもつ らいことだけど、その人と周りの人にとってつらさを乗り越えるっていう体 験が、お互いの魂を成長させるの。」

   「ユナは、そのために生まれてきたの?」

カケルは、最初に感じた疑問をリーデにぶつけた。

   「そうよ。ユナが決めたこと。ユナは、病気の人の心を知りたいって、 痛みを知りたいって。そうして生ま れ変わったの。」

   「何で、そんなことをリーデは知っているの?」

   「私? 私はユナの守護天使よ。ユナのそばにいて、ユナをずっと見守ってきたの。あなたにも、お母さんにもすべての人に守護天使はいるのよ」

   「ふーん・・」

何だかよくわからなくて、信じられなくて、カケルはユナを見つめた。

ユナは、唇をかんで目をギュッと閉じていた。

ケルンが、短い手でユナの腕を心配そうにさすっている。

いのちのうたは、ずっと続いていた。

光たちが、ゆっくりと動く。ひとりひとりの心に光を届けようとするかのように。

優しく、淡い色は、ほんのりとあたたかくて、心にぬくもりが広がった。 

やがて、ユナが顔を上げた。

   「お兄ちゃん、お兄ちゃんも絶対に光の世界に還ってきてね。そしたら また会えるから。」

   「ボクが、光の世界に?」

   「うん。」

ユナの瞳から、月の光に染まった涙がポロリとこぼれ落ちた。

   「すべては、学びのためにあるのよ。」

リーデが、カケルの両肩に手をそっとおいた。

   「どんなところに生まれて、どんな経験をして、どんなことを思うのか。周りの人をどう見て
  どんな風に考えて、どんな行動をとるのか。
  それはすべて経験。学びなのね。いいも悪いも、本当はないの。
  ただ、人をつらい目に合わせたり悲しませたりしたら、まっすぐに光の世界には還るのはむずかしい
  けれど・・・。 早く還りたければ、まっすぐ還れるような、生き方をしてほしいっていうことなの」
   

ユナが、にっこり笑ってうなづいて、ケルンを両手で抱きしめた。

ケルンは、ふにゃあと笑った。その顔がおかしくて、カケルも思わず笑顔になった。
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月の光 第三章 いのちのうた

    

  風が、ふと声を運んできた。
たくさんの、それでいてひとつの歌。

   まわる まわる いのちはまわる
   はるかな過去から遠い未来へ
   いのちは 生まれ変わる

   陽の光 月の光 
   風の歌 木の歌 鳥の歌 花の歌 
   草の歌 人の歌

   山の声 空の声 海の声 川の声

   春の時 夏の時 秋の時 冬の時
 
   喜びも 悲しみも 怒りも 苦しみも

   すべてを光にかえて 
   いのちはめぐるよ    

   いのちは光 光はいのち

   光に還ろう すべては光

 黄金色の草原も、色とりどりのひまわりたちも、チョウたちも、たくさん
の光たちも、風にフワリフワリとゆれながら歌っていた。

月の光が、優しくすべてを照らしている。

    「ごめんね、お兄ちゃん」

 突然、ユナが言った。

    「あたしのせいで、いっぱいいっぱい嫌な思いをさせてごめんね。」

    「な、なんだよ・・・」

    「お兄ちゃんがお見舞いに来てくれなかったのはそのせいだよね。」

ユナは、まっすぐ黄金色の草原を見つめながら言った。

    「今日、来てくれて本当にうれしかったよ。ありがとう。」

カケルは、言葉が見つからなくてユナと空中をゆらゆらと交互に見つめるばかりだった。

嫌な予感に強くつかまれたように、息が苦しくなった。

 花畑を飛んでいたチョウたちが、カケルたちのいる木の枝に集まってきた。

そしてまた、黄金色のじゅうたんを光の粉で作ってみんなをふわりと乗せた。

じゅうたんは、花や草や光たちがいのちのうたを歌う花畑の上へゆっくりと
移動して行った。

    誰かを想う時、心は光になって
    届いていくよ
    光はつながって 輝いていくよ
    光はすべてを 照らしていくよ

 光たちが、カケルとユナとユナのひざの上の、ずっと黙ったままのケルンとリーデをそっと包んだ。

言葉にならないあたたかい想いに、カケルの心はだんだん落ち着いて行くのを感じた。 
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月の光  いのちのうた

   
   カケルとユナの目の前には、月の光を浴びて色とりどりに輝く、花畑が広がっていた。

   「きれい・・・」

ユナは目を輝かせて見つめている。

 けれども、だんだん色がふっふっと消えて行き、黄金色の草原だけになる部分が増えて行った。

   「どうしたの?」

ユナが心配そうにカケルをのぞき込んだ。

よく見ると、花が枯れているのだった。

やがて、全ての花が枯れ、元の黄金色の草原だけになった。

   「みんな、枯れちゃった・・・」

涙声になったユナの肩を、リーデがふわりと包んだ。

   「よーく見ていてごらんなさい」

リーデは、木の下の地面を指さした。

 すると、花が枯れて消えてしまった所に、小さな芽がピンと顔を出した。

そして見る見るうちに双葉になり、本葉が出て茎がするすると伸びて、葉っぱ
が横にひろがって・・息をのんで見つめていると、とうとうつぼみがついた。

   「もうすぐね!」

ユナがそっとつぶやく。

つぼみはどんどん膨らんで、その先に花びらが見える。

あちこちに、色とりどりの小さな光が灯る。

ユナの願いをのせて、つぼみは光を増しながら少しずつ開いて行った。

心なしか、さっきよりも大きく見える。

   「わあ! 咲いたわ!咲いた!」

ユナはぶら下がっている足をバタバタさせて喜んだ。

次々に、花が咲いて行く。チョウたちも、また花の色に羽を染めながら飛びまわっていた。

黄金色の光も、ほわっとあちらこちらに生まれ、チョウたちのまわりで静かに
はねる。

それは、もう夢のような景色だった。

カケルの心もほうっとあたたかくなり、うれしい気持ちがこみあげてくるのだった。

   「ねえリーデ、どうしてこんなにうれしい気持ちになるの?」

ユナは、花畑を見つめながらたずねた。

   「それは、ユナとカケルの中に、光が生まれたからよ。」

リーデが穏やかな声で言った。

    「ここに住んでいる花や草や虫たちは、今生きていることを喜んで
 いるの。だから、こんなに輝いているのよ。いのちがあることをね。」

    「いのちが、あること?」

カケルはちょっとむずかしいな・・と思った。

    「むずかしくないわ。花も草も虫も木もいのちがあって生きているこ とが、ただうれしいの。それぞれがせいいっぱい生きたいって思っているのよ」

    「せいいっぱいってなに?」

ユナが、子どもらしい質問をした。

    「いっしょうけんめい、っていうことよ。生まれたところでいっしょうけんめい、生きて行こうってその気持  ちが心を輝かせているの」

    「あたしも、いっしょうけんめい、生きたよ」

ハッとカケルがユナを見る。リーデがぎゅっとユナを抱きしめた。

    「ええ、ユナはいっしょうけんめい、生きたわ。」

    「うん。病気だったけど、ママもパパもいっぱい泣いてたけど、あた しはいっしょうけんめい、生きたよ」
カケルは、かける言葉が見つからなくて下を向いた。

  花たちが、まただんだん枯れて行く。黄金色の草原が、寂しくゆれているだけになった。

そしてまた、同じところに芽が吹き出した。

    「ユナ、カケルも見たでしょう、花は芽を出して大きくなって咲いて そしてまた枯れるの。でもちゃんと芽  を出すでしょう? 人も同じよ。
  生まれて大きくなっていずれは死ぬの。でも、また生まれ変わる。花も人も 永遠のいのちを持っているのよ。」


    「永遠のいのち?」

    「そうよ。人は何億年も、この地球で生まれては死んで行って、また 生まれ変わって・・何度も何度も転生   輪廻を繰り返しているの」

    「てん・・しょう・・りんね・・?」

    「むずかしい言い方だったわね。つまり、この世を去った世界とこの
   世界を行ったりきたりしているっていうことよ。」

    「そこは、どんな世界なの?」

ユナが聞いた。カケルはドキッとした。

    「そこへは、自分の心を光でいっぱいにした人しか行けないのよ。 生まれたことを喜んで、いっしょうけん めい生きた人。そばにいる人をしあわせにした人だけ。誰かを憎んだり、誰かにうらまれたりしている人は来れな  いの。」

    「ふーん、あたしは行けるかな。」

    「ええ、ユナはちゃんといっしょうけんめい生きたわ。私がいちばん よく知っているわ」

花が、また一面に咲き乱れ、色とりどりの光を放っていた。

けれどもカケルは、胸のドキドキが止まらなくなっていた。

ユナは、もしかして、その世界へ・・・?
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